今月のミュージック・ブック

「ダーク・ビューティ」(’74年録音) ケニー・ドリュー・トリオ

ピアノトリオの極致と言える歌心溢れる名曲に圧倒される

 ケニー・ドリューは50年代から活躍するキャリアを持ちバド・パウエルの影響を感じさせる重鎮ピアニストである。本国米国で評価されないままパリに滞在した後にデンマークのコペンハーゲンに拠点を移し、ジャズハウス・モンマルトルのハウスピアニストとして好評を得る。ラッキーだったのは以降、彼の重要なパートナーとなるニールス・ペデルセンと、また彼の作品を録音することになるスティープルチェイスレコードのニルス・ウィンターと出会ったことだ。ペデルセンとのデュオをスタートに、旧友アルバート・ヒースとペデルセンによるゴールデントリオによる同レーベル4作目「ダーク・ビューティ」が第一線への復活となる代表作となったのだ。

上記「ダーク・ビューティⅡ」として発売された作品も優れもので、どうせなら2枚組で出した方がよかったのではと思う次第である
ブルージーで尚且つヨーロッパで身に着けたリリカルなプレイでバラードもアップテンポでも魅力を放つ。その後ハード・バップ系のピアニストとして日本でも人気が沸騰し、アルファ・ジャズレーベルに数多く作品を残す。尚、同日録音のスタンダード曲集が「イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ」(ダーク・ビューティⅡ)として発売されている。

相川 潔
元広告会社社員・長崎市生まれ熊本市在住。
ジャズ、ロック、ソウルなどのレコードを追い求めて数十年。名盤、奇盤多数。
レコードは盤、ジャケツト、再生機を含めて棄しむべき芸術だと思います。

『世界は分けてもわからない』

答はひとつ

 昨年の『ぐらんざ』一月号の本の紹介は、分子生物学者・福岡伸一さんの『動的平衡』だった。私たちの身体の内部に息づく60兆個もの細胞は、絶えず作っては壊すという自転車操業を続け、それは生命のおわりまで続くという仕組みを知り、いのちの不思議さに息をのむ思いをした。

今月は、その福岡さんの『世界は分けてもわからない』をとりあげた。私たちの身体をつくる細胞のひとつひとつは、因果のくさりで密接につながり、決して部分に切り離すことができないこと、そしてそのミクロの因果でつながっている全体こそが人間の生命であるという。「細胞はつくる仕組みよりも、こわす仕組みの方をずっとずっと大切にしている」とすれば、滞ることなく流れている生命を、部分に分けることはできないし、分けたものはすでに生命の輝きを失ったものになる。

 
 現代、私たちの最大の関心事のひとつは健康であろう。が、生命が部分に分けられないとすれば、病むとは現代の社会構造や人間関係なども含めた存在全体の問題である。現代人の健康への欲望を福岡さんは、分子生物学の視点から「治すすべのない病」といっているように思う。生命は分けてもわからないとすれば幸福への答はひとつ。壊す、作るの自転車操業に専念して、いのちをよどませないこと、そのことだと思う。

『世界は分けてもわからない』 福岡伸一 著 講談社 現代新書 842円

六百田麗子
昭和20年生まれ。予備校で論文の講師をする傍ら本の情報誌「心のガーデニング」の編集人として活躍中。

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